----心理実験室----


・第1実験室:近接の効果・

・女子大生に未知の二人の女性に関する書類を見せます。そのうちの一方はこれから始まる討論会で一緒のグループになる人物、他方は別のグループになる人物だと信じこませます。そして、その二人それぞれに対する印象を評定させます。
 書類に書かれている情報は非常にあいまいなもので、具体的な印象などつくりようがありません。それにもかかわらず、自分の討論相手として指定された女性のほうが明らかに好意的に評価されていました。


第2実験室:禁じられた遊び

・母親がまず五種類のオモチャで子供(3〜5才)を自由に遊ばせて、その後好きな順位をつけさせる。次に母親は子供が二番目にあげたオモチャで遊ぶことを強く禁じ、触らないようにといいついてけおく。こうしておいて、母親は子供を残し10分間部屋を出る。子供は一応母親との約束を守るが、内心では使ってはいけないと言われたオモチャが気になってくる。
 10分後、部屋に戻った母親は禁止の命令を解除して、しばらく自由に遊ばせる。その後、もう一度子供に好きな順に順位をつけさせると、この時子供が一位に選んだのはあの「禁じられたおもちゃ(10分前は二位)」だったのだ。同様の実験を別の10名の子供に行っても結果は同じであった。


第3実験室:カンマンの実験

・心理学者のカンマンは、ニュージーランドの人口密度の高い大きな町と、人口密度の低い小さな街の二つで、通行人の親切度を調べる実験を行った。
 手紙を歩道に落とし、近くを通った人が拾ってポストに投函してくれる割合を調べた。
 1時間かけて行われた実験の間に、手紙を落とした場所を通りすぎる人は大きい街で1分間に3,2人、小さい街では2,4人。この条件下で、落ちている手紙を拾わずにそのまま通過してしまった歩行者の人数は、大きい街では平均25,3人、小さい街では13,7人という結果が出た。


第4実験室:熟知性の法則

・アメリカの心理学者ザイオンスは、顔写真を目にする回数とその当人に対して持つ感情についての実験を行ったことがある。
 まず大学生に、何枚かの顔写真をそれぞれ回数を変えて何度か見せておく。たとえばある写真は一回、別の写真は二回、以下、五回、十回、二五回といった具合だ。
 そして最後にこれらの写真とまだ一度も見せたことのない顔写真とを大学生に見せ、それぞれの人物に対して「どの程度好きか」を答えてもらった。すると結果は見事なまでにあらかじめ見せた回数が多い写真ほど好感度が高かったのである。この現象は顔写真だけでなく、漢字を見せた場合も、意味のない図形を見せた場合も当てはまった。
 こんなふうに、”目にする回数が多い対象ほど好きになる”現象を「熟知性の法則」という。


第5実験室:駅の男子トイレ

・先にふれた「パーソナル・スペース」が人の行動のみならず、生理にまで影響を及ぼす例として「駅の男子トイレの混み具合と排尿」についてのアメリカでの実験例をご紹介しよう。
 一、自分(被験者)のすぐとなりで他の人が排尿する。
 二、自分から1つ離れた便器で、他の人が排尿する。
 三、誰もいないトイレで一人で排尿する。
 ……という三つの条件を男子トイレで作り、それぞれの条件下で、男性が「用意」の体勢に入ってから排尿し始めるまでの時間と、「排尿そのものの継続時間」の二つを測定した実験である。
 その結果、次のようなことがわかった。
 「一」の条件下では、排尿し始めるまでの時間が他の条件より多くかかり、しはじめてからし終わるまでの時間が他の条件より短くなった。
 そして、「二」と「三」の条件ではほとんど時間差がみられなかったのだ。


・第6実験室:ロミオとジュリエット効果・

・こんな調査結果がある。同じ宗教の信者同士で結婚したカップルと、異なる宗教の人同士が結婚したカップルとで愛情得点を比べてみたところ、異教徒同士のカップルのほうが得点が高かったというのだ。異教徒同士の結婚となると、当然、周囲からの反対の声も多いはず。そのことと、こうした二人の結びつきの良さにはどのような関係があるのだろうか。
 ある心理学者によれば、゛愛したもの同士が親の反対で無理やり仲を引き裂かれる"という状況のもとでは、その"親に反対されている"こと自体が恋人同士の愛情をますます高める可能性があることを見出している。


・第7実験室:寒中の鼠・

・ネズミを50匹くらい集めて、まず一週間、ネズミにとって最適の環境(ちなみに温度は23℃が最適)で飼っておく。一週間たったら、今度は−10℃の寒い所へ移してみる。すると30分くらいのあいだにみんな死んでしまう。今度は温度以外は最適(温度は10度に設定)にしておく。そして、前と同じように一週間経ってから−10度の寒い所へ移してみる。すると今度は30分では一匹も死なず、5時間も生き長らえた。
 同じようにして運動、空腹についても実験してみる。そうすると運動をさせたネズミは体力がつき、食物を与えなかったネズミは空腹に強くなる。また、寒さ、運動、空腹の三つを組み合わせると一週間で非常に強いネズミが出来あがる。
 このような強いネズミを集めて、もう一週間、最良の環境で飼ってから前と同じように−10℃の所へ移す。すると5分から10分の間に全てのネズミが死んでしまった.


・第8実験室:ロールシャッハ・テスト・

・左右対称のわけのわからない図柄を見せて「何に見える?」と聞く、かの有名な「ロールシャッハ・テスト」。もちろん正解などない。このテストは、曖昧(あいまい)な図版を示して、図版のどこに、何が、どのように見えるのかの反応を手がかりに人格の特性を探る診断法だ。
 なぜこんなテストで人格の特性を探ることが可能なのかというと、人は曖昧で不確実なものに出くわすとそこに確実なものを求め、それができないとなんとか意味づけをする、という傾向があるからだ。人は知識や経験に基づいて自分なりの解釈をするのである。つまり、その反応ぶりには、表面に出にくい要求や無意識的な不安、葛藤などが反映されている。反応の中に、その人の深層心理が隠されているというわけだ。
 これは図版だけでなく言葉でも同じこと。相手の本音を引き出したいときには「これは友達から聞いた話なんだけど……」などと言って、話をぼかして解答を求めると、案外正直な心情が出てきたりするかもしれない。


・第9実験室:返報性の心理・

・二人組(一人は仕掛け人)に絵画を見に行かせ、休憩時間に二人のうち仕掛け人のほうが、もう一人に頼まれもしない飲み物をごちそうする。その後、頃合いを見計らって、自分の手元にあるチケットを何枚でもいいから購入してくれないかと持ちかけると、相手はどのような反応を示すかという実験をある社会心理学者が試みた。
 結果は、飲み物をあげないケースと比較して2倍の量のチケットを購入してもらえたという。これは、飲み物の代金を上回る促進効果を得たことになる。
 人間はそれが見え透いている行為であるとわかっていても、やはり無償の奉仕には弱いものだ。恩を売られると返そうという本能が働くらしい。これを心理学的には「リプロイシィ(互恵性)」という。リプロイシィとは「返報性の心理」つまり通常は依頼されても引き受けないのに恩を売られたら返さずに入られない心理のことだ。
さて、あなたならこの返報性の心理をどのように利用しますか?


・第10実験室:血液型性格判断・

・日本人の6〜7割は性格と血液型には何か関連性がある(A型は几帳面、とか)と思っているらしいが、こんな性格判断が信じられているのは日本だけ。もちろん科学的に見ても信憑性はほとんどない。しかし日本人はなぜこのような血液型性格判断を信じてしまうのだろうか。それには以下の三つの効果が大きく影響していると言われている。
(1)フリーサイズ効果:例えば、冷静に各血液型別の性格の特徴を読んで見るといい。自分の性格はいずれの血液型の性格にも該当する部分があると思わないだろうか。これはいわばフリーサイズのYシャツのようなもので、誰にでも当てはまってしまうのだ。
(2)ラベリング効果:誰にでもある性格に、A型、B型、O型、AB型というラベルをつけると、その血液型の固有の特徴だと思ってしまう。
(3)インプリンティング効果:最初に「自分の性格の特徴と当たっている!」と驚いたことが、そのまま脳に記憶されているため、盲信してしまう。


・第11実験室:スティンザー効果・

・アメリカの心理学者スティンザーは小集団の生態を研究した結果、次の三つのスティンザー効果を報告している。
A)会議では、以前論議をたたかわせた相手が参加しているときは、誰でもその人間の正面にすわる傾向がある。
B)ある発言が終わった時、次に発言するのは、その意見の賛成者の場合よりも反対者である場合が多い。
C)議長のリーダーシップが弱い場合は、会議の参加者は正面にいる人と話したがる。逆にリーダーシップが強い場合は隣の人と話したがる傾向がある。
それらの効果を踏まえれば、以下のような応用が可能だ。
1)席がいくつも空いているにも関わらずあなたの正面に座る人がいたら、あなたの意見に対し、必ず反論してくる。あらかじめ、対抗策を考えておくこと。
2)あなたの意見と同じ意見が出されたら、他人に発言をされる前にすぐさま賛成意見を述べ、賛成意見を増やしておく。反対意見を言われてしまってから賛成意見を増やすとなると、かなりの手間がかかる。

スティンザー効果の応用は国会でも利用されているほどだ。覚えておいて損はない。


特別講義室:パーソナルスペースについて

・電車がすいているときにはほとんど気にならなかったのに、混んできたとたん、他の乗客の存在が気になりはじめ、不快感やなんともいえない息苦しさを感じることはないだろうか。あるいはガラガラにすいている映画館の中で、(他にも席はいくらでもあるのに)あなたのすぐ隣にだれか腰掛けたとしたら……これまた、なんとなく居心地が悪い思いをするだろう。
 人は自分の体の周辺に、他人の侵入を拒む、”見えない泡”みたいなものを持っている。いまあげたさまざまな居心地の悪さはこの泡の内側まで他人に侵入されたことによって起こるのだ。
 いわば、”自我の延長”持ち運び可能な”なわばり”とみなすことのできるこの泡のことを心理学用語で「パーソナルスペース」(個人空間、私有空間)と呼んでいる。


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