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〈〈 詩歌の断片 〉〉
Fragmentary of poety

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思い出が私の心のすみずみを照らす。
私たちの去りし日々の微笑み、
もう一度やりなおせるとしたら、
私たちはそうするだろうか。
思い出は美しい。
だが思い出すことは辛すぎる。

―マリリン・バーグマン 「追憶」



目を閉じてそこに寝ているとき、
このまま二度と起きあがることがないとしたら、
どうなるだろうと思った。
あとで君の事を考えた。
目をあけ、起きあがって、また、うれしくなった。
君に感謝している。それが言いたかった。

―レイモンド・カーヴァ― 「水の出会うところ(詩集)」



言いたいことがあるのにどこから話せばいいのやら
君のそばにいると急に口がきけなくなっちゃうんだ

君の前に出るといつもヘマばかりの僕
まあいいさ そのうちうまく行くときもあるだろう

つれない素振りを見せたとしても
それは決して僕の本心じゃない
緊張のあまり事をややこしくしちゃうのさ

言いたい事があるのにどうしても言えない
自分でもわけがわからないよ
とりあえず気長にチャンスを待とう
時間はたっぷりあるんだから

ときどき君のことをもっとよく知ってたらと思う
そしたらこの気持ちを打ち明けて分かってもらう事も出来るはず

―ジョージ・ハリソン 「I Want To Tell You



わたしは思う この世ははかなく
苦悩がさけがたく
痛手に満ちていると
だがそんなことがなんだというのか

わたしは思う わたしたちはやがて死に
どんなに若々しい生命も
やはり死には勝てないと
だがそんなことがなんだというのか

わたしは思う 天国では
とにかくすべてが公平にされ
何らかの新しい配分にあずかると
だがそんなことがなんだというのか

―ディッキンソン 「わたしは思う この世ははかなく」



たったひとりの女のために
わたしの心は痛かった

今ではどうにかあきらめられたが
そのくせわたしは泣いている

心も頭も彼女から
ようやく離れはしたものの

そのくせわたしは泣いている
どうにか切れはしたものの

ヴェルネーヌ「たったひとりの女のために」


----------↓ラブソング特集(米国編)↓-----------


誰ともおしゃべりをせず
誰とも遊び歩かないけれど
私は幸せ
行いを慎んで
愛はあなたのためだけにしまっておく

―アンディ・ラザフ 「浮気はやめた」



絵に描いた海を渡る紙で作った月も
作り物の木にかかる 絵の空も
あなたが私を信じれば本物になる
あなたの愛がなければ作り物に過ぎない

― ビリー・ローズ&イップ・ハーバーグ「ペイパー・ムーン」



あなたの帽子のかぶり方 お茶の飲み方
輝くような微笑み方 調子はずれの歌い方
恋のデコボコ道で私達は再び逢わないかもしれない
でも、この思い出は誰も私から奪えない

― アイラ・ガーシュウィン「誰も私から奪えない」



恋に落ちることは素晴らしいとみんなが言う
誰がそう言ったのか思い出せないし
本で読んだこともないけれど
みんながそう言ったことは知っている

―アーヴィング・バーリン 「They say it's wonderful」



恋の春は終わって夏になったのに
思いがけなく君が現われた
握り合う手と手
求め合い、私を抱き、君を抱く

― ニール・ダイヤモンド 「スイート・キャロライン」



これまで私はたくさんの場所に行き
多くの歌を歌い
人々に見つめられたが
今はあなたと二人だけ
そしてこの歌をあなただけのために歌う
私の言葉が分からなければ
せめてメロディーだけでも聴いてほしい

― レオン・ラッセル「A song for you」



私達の人生はいま始まったばかり
白いレースの衣装、誓いの言葉、幸せの口づけ
私達は自らの道を歩み出し
新しい地平線を目指す

―ポール・ウィリアムス「愛のプレリュード」



あなたは夢でも天使でもなく、ただの男
そして私は女王ではなく、ただの女
二人が心に描いた人生の中に素晴らしい場所を作り
別れの時までそこに住もう
やがて会えなくなる日が来ると思うけど
今はあなたと共にいる

― バフィ・セント・マリー「別れの時まで」



私はあなたを強く愛している
あなたが私の手をとったその日から
私の人生は再び始まった
私は人生がどんなに寂しいものかを知っている
でも私はくじけない
今はあなたがいるのだから

―ドン・マクリーン「And I love you so」



離れている恋人を身近に感じさせるラブレター
愛の言葉を受け取れば
暗い夜でも孤独ではなくなる

―エドワード・ヘイマン「ラブレターズ」



私を喜ばせようとしてイメージチェンジなんかしてはいけない
洒落た会話もいらない
気軽に話し合える人がほしいのだ
今のままのあなたが好きなのだ

―ビリー・ジョエル「素顔のままで」



言い訳なんかしないで
あなたが帰ってきてくれて嬉しいの
耐える事も愛なの
あなたは私の喜びであり悲しみなんだから

― アーサー・ハーツォグ・ジュニア「言い訳しないで」



私を愛してほしい
でなければ別れて私を一人にしてほしい
あなたの愛がほしい
でも 明日は返してしまう愛ならいらない

― ガス・カーン「愛か別れか」



私の結婚指輪を置いていきます
私を探さないで 私はうまくやれるでしょう
でも このことは忘れないでね
ベッドでタバコはよくないわ

― ウィラード・ロビンソン「ベッドでタバコはよくないわ」


----------↑ラブソング特集(米国編)↑-----------



この道を行けば どうなるものか
危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
踏み出せば
その一足が道となり その一足が道となる
迷わず行けよ 行けば分かるさ

― 一休宗純



妻よ
わたしの命がいるなら
わたしのいのちのためにのみおまえが生きているときがあったら
妻よわたしはだまって命をすてる

― 八木重吉「ことば 妻に与う」



若き二十のころなれや
三年がほどはかよひしも
酒、歌、煙草、また女
外に学びしこともなし

―佐藤春夫 「酒、歌、煙草、また女」



生まれたる者は
やがて死ぬ者なり
我も亦
やがて死なん
だが生きてゐる間は生きる也
我らしく生きる也
何者にも頭をさげず
いぢけずに生きんと思ふ

― 武者小路実篤「歓喜雀踊」



太陽の輝かないところに光が射す
海水の流れないところに 心臓の海が
その潮流を流し込む
そして頭に蛍をつけて射し込んできた精霊たち
あの光あるものたちが
骨を飾る肉のないところを 肉を抜けて行進する

― ディラン・トマス「太陽の輝かないところに光が射す」



去れよ、涙は空しいものでしかない
死は、悲しみを知ることも、きくこともない。
そのことは、我らの嘆きを消しうるであろうか
一人のものの愁いを軽くするであろうか
私に、忘れよ、という君を見よ
その顔は青ざめ、その眼は濡れているのだ。

―バイロン「ああ、花のさかりに散ったひとよ」



空に虹をあおぎ見るとき、
私の心は跳ねる。
私の生涯が始まったときもそうであった。
大人になった今もそうである。
年老いたときもそうであってほしい。
でなければ、死なせてほしい。

―ワーズワース「My Heart Leaps Up」



少年老い易く学成り難し
一寸の光陰も軽んずるべからず
いまだ醒めず池塘春草の夢
階前の悟葉すでに秋声

―朱子「偶成」解釈



けれども私は語らない。
私のつぶやきは聞こえない。
私は熱い涙を流す。
涙は私を慰める。
悲しみに満ちた心は
にがい涙の喜びを知る。

―プーシキン「詩集」



私はすべてをすでに知りつくした、
すべてをすっかり知りつくした。
夕べも、朝も、午後も知りつくした。
私は自分の人生をコーヒースプーンで測りつくした。

―T.S.エリオット「J.アルフレッド・プルーフロックの恋歌」



さあ行こう、君と僕と――
手術台の上でエーテル麻酔をかけられた患者のように、
夕暮が、空を背景に広がる時に。

―T.S.エリオット「J.アルフレッド・プルーフロックの恋歌」



あの初恋の思い出に
ハンカチ一つが残ってた
数日前のある晩に そのハンカチもなくなった
とるにも足らないこのことが
思いのほかに辛かった

今では遠い恋人よ 僕はふたたび見ないのだ
最後に会った曇り日の
つらい別れの朝まだき
ちっちゃな絹のハンカチを
お前のか細い指先で
振って泣いてたあの影を

― ギイ・シャルル・クロス



しかたがありません、さあキスをしてお別れしましょう
おしまいです、もうあなたが私から得るものはありません
私は嬉しい、ほんとうに、心から嬉しい
なにしろ私はきれいさっぱり身軽になれるのですから

― マイケル・ドレイトン「アイディアの鏡」



私が死のために立ち止まれなかったので
死のほうで親切にも立ち止まってくれた
馬車に乗ったのはただ私たちだけ
それと不滅も

― E・ディッキンスン「Because I could not stop for Death」



ここは この都会で一番高い場所 なぜならここは
この都会で一番くらいからだ

― 田村隆一「日没の瞬間」



山には山の 憂いあり
海には海の かなしみや
ましてこころの 花園に
咲きしあざみの花ならば

― 横井弘「あざみの歌」



もし私が一人の心を傷心から救ってやることができれば、
私の生きることは無駄ではないだろう。
もし私が一つの生命の悩みを慰めることができれば、
あるいは一つの苦痛をさますことができれば、
あるいは一羽の弱っている駒鳥を助けて
その巣の中に再び戻してやることができるのなら、
私は無駄に生きてはいないのであろう。

―E・ディッキンスン「もし私が一人の心を」



あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

― 田村隆一「帰途」



俺は岸壁を歩く
君も断崖を飛べ

― 井上光晴「恋愛」



砂の上のわれらのように
抱き合っている頭文字
このはかない紋章より先に
われらの愛が消えませう

― R・ラディゲ「頭文字」



過去がどんなに不毛であったとしても、
いま葉が緑であれば、
私たちにとってはそれで十分なのだ。

― J・R・ローウェル「六月好日」



どうして、お前と、会ったのか?
なにしに、一緒に、生きるのか……
おもってみれば、をかしなことだ

― 小高根次郎「をかしなこと」



女房は死んだ、俺は自由だ!
これで酒も、しこたま飲める。

― ボードレール「人殺しの酒」



人を信じることは人を救ふ

― 高村光太郎「あの頃」



おれもおれなりに配達をつづけたい
おれを待っていてくれる人々に
幸いその配達先は僅かだから
そうだ おれはおれの心を配達しよう

― 高見順「おれの期待」



わるいやつだと人が非難する人にも
私はやはり多大のよさを見出し、
神のようだと人が称える人にも
私は多大の罪と汚れを見出す。
私は線を引くことをためらう。
二者の間に、神は線を引かない。

― ワーキーン・ミラー「人が非難する人にも」



僕は持ちたい、家の中に
理解ある妻と
本のあいだを歩き回る猫と
それなしにはどの季節にも
生きていけない友だちと

― アポリネール「猫」



友よ 詩のさかえぬ国にあって
われらがながく貧しい詩を書きつづけた

― 三好達冶「浅春偶語」



あなたはあなたの苦しみを笑って暮らした
あなたはあなたの苦しみで作品を作った
あなたはあなたの白鳥の歌を酒に代えた

― 高梨一男「逝ける太宰治へ」



人生は実在だ!人生はまじめなものだ!
そして墓場はその終局ではない
「汝塵なれば塵に帰る」とは
魂について言われたのではなかった。

― ロングフェロウ「人生の賛美」



今では女房子供持ち
思えば遠くへ来たもんだ
この先まだまだ何時までか
生きてゆくのであらうけど

生きてゆくのであらうけど
遠く経て来た日や夜の
あんまりこんなにこいしゆては
なんだか自信が持てないよ

― 中原中也「頑是ない歌」



昼でも暗い中を
走らねばならない
お前不幸な都会の旅人よ

― 小熊秀雄「地下鉄」



三つのマッチを一つ一つ擦る夜のなか
はじめは君の顔を一度きり見るため
つぎのは君の目を見るため
最後のは君の唇を見るため
残りの暗闇は今の全てを思い出すため
君を抱きしめながら

― ジャック・プレヴェール





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