・リドルストーリー 〜結末なき物語〜
その3:クリーブランド・モフェット『謎のカード』(要約文)

・『女か虎か?』とともに世界三大リドル・ストーリーの古典とされているのは
マーク・トウェインの『恐ろしい中世のロマンス』とクリーブランド・モフェットの『謎のカード』
今回はそのなかの『謎のカード』を紹介しましょう。


 主人公はリチャード・バーウェルというニューヨークっ子。
 彼は旅先のパリで見知らぬ美女から一枚のカードを渡される。カードには紫色のインクでなにやらフランス語らしい文句が書かれていたが、フランスの語の読めない彼はホテルの支配人にそれを読んでもらう。すると支配人は顔色を変えて、「いますぐ、このホテルから立ち退いていただきたい」という。彼はさっぱり訳がわからないながら腹を立てて、別のホテルに移り、そこの主人に事情を話す。
「そんなばかな。どれ、私がそのカードを読んであげましょう」
にこやかにカードを手にした主人の態度が一変した。「お気の毒ですが、ムッシュ。私どももあなたをお泊めするわけにはいきません」憤慨した彼は、パリに長期滞在している古い友人を訪ねて、カードを見せる。
「おお、なんということだ!キミは本当にこ、これが……」友人は頭をかかえ「まったく申し訳ないが用事があるので」と姿を消してしまった。
すっかり途方にくれた彼は、仏英辞典を買って、自分でその文面を翻訳してみようとしたが、チンプンカンプンで要領をえない。そこで思案したあげく、定評のある私立探偵のところに相談を持ちこむ。探偵は答える。
「いまのところはこれがどのようなものかご存じないほうがいいでしょう。明日必ずホテルにお伺いし、そのとき何もかもご説明いたしますから」
「というと、どれほど容易ならんことなんだね」
「そのとおりです」
翌朝、探偵は制服の警官を連れてやってきた。彼は警察本部に同行を求められ、厳しく調べられたあげく、結局、留置所に入れられる。彼は公使館と連絡をとり、なんとか釈放されるが、それは「二十四時間以内にフランスから立ち去ること」という条件つきだった。公使館もその理由は説明してくれない。
帰国した彼は、フランス語のできる妻にそのカードを読ませる。すると、貞節だった妻は別人のようになり、いきなり離婚を申し出る。彼は最期の頼みの綱として、一番親しい幼なじみに「助けてくれ」と泣きつく。
親友は涙ぐみながら彼の話に耳を傾け、
「そんな無法なことがあっていいものか。もちろん僕は君の力になるよ。二人で力を合わせて戦おうじゃないか。さあ、そのカードを見せてくれたまえ」
「これだ。読めるかね?」
「もちろんだとも」
次の瞬間、親友は蒼白になった。
「ああ、君は考えられるかぎりのおよそ最悪のニュースを持ちこんでくれた」
「教えてくれ。カードには何と書いてあるんだ」
「いや、僕にはいえない。世の中には、してはならないことがあるんだ」
結局、無二の親友とも喧嘩別れした主人公が、ニューヨークの街をさまよっていると、忘れもしない、パリでそのいまわしいカードを彼に渡した美女が馬車に乗っているのを見かける。
彼は必死で後を追いかけ、彼女の家をつきとめて面会を申しこむ。
何度も断られたあげく、やっと会うことができたときには、彼女は急病で死ぬ間際だった。
「後生です。どうか教えてください。なぜあんなことをなさったんですか」
彼の質問に彼女はあえぎながら、
「私があなたにカードを差し上げたのは・・・あなたに・・・」
彼女は激しい喘息の発作に襲われ、そのまま絶命してしまった。彼は呆然として運命のカードに目をやった。声にならない叫びが彼ののどをついて出た。
文字は跡形もなく消え失せ、カードはいつのまにか白紙になっていたのだ!


カードには一体何が書いてあったのか、そしてその文字がなぜ消えてしまったのでしょうか?
このリドルストーリーの<解答編>なるものを作者は後で書いていますが、
それは”悪魔の魂を描いた絵”とかなんとか、さっぱり要領を得ないもので、
おそらく作者自身カードの文面まで考えていなかったのではと思われます。


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読者の「女と虎」考